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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2015年

コスモス1月号

透き通る翅きらめかせ湖岸(うみぎし)をルリボシヤンマ低く飛び交ふ

夜遅く北極光(ノーザン・ライト)が見えさうと思ひがけなしテレビのニュース

磁気嵐にGPSの狂ひたりオーロラ予報の出たる今夜は

北北西の空を目守りて午前二時碧き光の見ゆる気もする

見えるやうな見えないやうなオーロラは見たことにして寝てしまおうか



コスモス2月号

言論の自由

午後の陽の差し込む秋の美容院 鋏の音がふつと遠のく

ひめさまの坐り姿のやうな<八>おすべらかしの裾をひろげて

「言論の自由を守れ」と言はるるが護る価値なき言論もある

「<九十歳>がわが病名」と友が詠む 新たな境地をユーモアにして

<俳味ある夫>と思へば面白しマイペースなる七十五歳



コスモス3月号

秋空の光の放つエネルギー撥ね返しつつ銀杏輝く

起き抜けに飲むミルクティーやすものの紅茶葉(リーフ)の方がすなおになじむ

トルコ住まひの友を待ちをりクリスマスライト煌く新宿駅に

ピーマンにフライドライスを詰めて煮るトルコの前菜どこかなつかし

四十度の蒸留酒と聞き身構へる真水のやうに透き通るRaki(ラク)
             ラク=トルコやバルカン半島の強い蒸留酒


コスモス4月号

「コスモス」の旅に参加し台北の故宮に「書譜」の巻物を見き

ほどほどの混み具合なる九州の故宮展 先づ「人と熊」見る

九州の故宮展に見る「人と熊」笑ふがごとく大き口開(あ)く

黄庭堅の行書の力強き線千年経たる今もたのもし




コスモス5月号 (奥村晃作選)

「水先案内(パイロット)」と黄旗を立てて一隻が濃霧の奥へ急ぎゆきたり

通過地がいつしか越冬地に変はり白(はく)雁(がん)群れて草地を覆ふ

白雁の領となりたる一月のゲリー岬を霧が閉ざせり

声あげてフィッシャーマンが商へり身の透くやうな大き甘海老

甲板に平びて広き背を曝す凧と形の似通ふ鱏(えひ)が



コスモス6月号 

「おはなはん」のテーマソングが突然に鳴り渡りたり 正午の大洲

ドラマよりそれを見てゐし二十代の我を懐(おも)ひぬ テーマソングに

幼稚園バスを見送り下の子をあやしつつ見き 朝ドラ「おはなはん」

醤油味のロールケーキの売られをり大洲の観光案内事務所



コスモス7月号

流水にさつと洗ひてつまみたり〈Redglobe(赤き地球)〉といふ名のぶだう

ダウンジャケット着込みて観たり春寒を満開となるカナダの桜

午前四時欠けはじめたる月を見る我と樹上のラクーン二匹

イースターの空明けそめて触終へし満月白くうすれて浮かぶ



コスモス8月号

それぞれに区別厳しく〈調理師〉と〈栄養士〉では「し」の字が違ふ

長電話まだまだ続く 本筋を逸れてそこからまた枝が出て

減らさむと思へど物は増殖しひと部屋はもう納戸状態

子の妻とヴィヴァルディの「四季」聴きにゆく弦の刻めるリズムが好きで




コスモス9月号

山腹にまだ消え残る雪の間に氷河の百合(グレーシャー・リリー)うつむきて咲く

海底に乙姫、月にかぐや姫描きて自在いにしへ人は

喉を病み声の出せない夫とゐて気づけば我もささやきてをり

ひらがなを習ひはじめしカナダの児「へめへめもへじ」と書きてはしやぐ (「め」に傍点)



コスモス10月号

うつむきてひまはりさへもしよげかへるこの夏一の暑さの午後を

渇水に茶色に枯れし芝生にはたんぽぽの葉のみどりが目立つ

「ああ、つひに」と目を瞑りたり新聞に宮英子氏の訃報見つけて

「先生とは呼ばないでね」と言ひましし宮英子さん・・・やはり先生

青墨で英子氏の五首書き上げて私ひとりの「偲ぶ会」する




コスモス11月号

カンガルーの<挽肉パック>が並びをり高級スーパー精肉売場

「カンガルーはよいが鯨は食べるな」に多少の違和感なしとは言はず

カンガルーのミートボールのサンプルをひと口食べて・・・「む、む、悪くない」

「なんとなくアゼルバイジャンに来てます」と友より届く気紛れメール

風向きの変はりて町を覆ひたり百キロ西の山火事の烟(けむ)




コスモス12月号

力づくで自然を制し繁栄す荒野の中の若きPlano(プラノ)市
      Plano=Dallas北郊の都市で有力企業本社、研究開発センターなどが多数ある。

百エーカーの整地が進む 移り来るトヨタのアメリカ本社のために

大樫の葉混みの奥より湧き上がるプラノの蝉の太き濁(だみ)声

梟のひと声のして蝉たちの大合唱に休止符入る

反抗期も徹底すれば御しやすし「するな」と言はれることを先づする




バンクーバー短歌会
1月 (96歳で他界された田中さんを偲んで)

「あんたまだ若いのに何やっとんの」七十過ぎても笑はれし我
(田中さんのスタイルをまねて一首)

「〈が〉がよいか、〈は〉が合ふかとか言ってると悩みを忘れていいわ。短歌は」
   (田中さんがいつも言っていた言葉)


2月
 題詠 「額」

額入りの遺影に親しき祖父の顔 生真面目な眼が母と似通ふ

年毎に古びる我のマンションの評価額また今年も上がる


3月

Tajo(タホ)河の岸に拾ひし石二つ文鎮として書初めをする  

書初めは好きなことばでよいと聞き五歳児が書く「ラーメン」の四字



4月 題詠「星」

わがうちのブラックホールに眠りをり かつて夜ごとに輝きし星

冴えわたりキーンと音のするやうな夜空に高し北斗七星


5月

海底に乙姫、月にかぐや姫を住まはせ自在「ものがたり」とは

少しづつ脚より薄れ午後の虹あはく残れり雲にまぎれて



6月

題「足」

摺り足で謡ひに合はせ進み来てシテは舞台の中央に立つ

足裏が白くはつきり見えてをり胎児を写すエコー写真に



7月

へのへのもへじ」を「へめへめもへじ」と書くもゐて賑はふカナダの習字教室


「へのへの」を「へめへめ」と書く少年に「へめへめもへじ」当惑の表情(かほ)


8月

題「苔」

一族の墓石それぞれ苔生せり母の故郷の山腹の墓地

山腹に切り開かれし一族の墓地に苔生す祖父の墓石も


9月 (自由)

スカンクが来たのだらうか裏庭にゴムの焼けたるやうな臭ひす

スカンクが庭に遺しし悪臭が今日の驟雨にやつと消えたり


10月 
題 「眼鏡」

黒メガネかけたるやうな顔をしてラクーンじつと吾を見つめる 
   
3と6と8と9とが似て見えて遠近両用眼鏡(バイフォーカル)を使ひ始めき
 

11月

何時の間につもりたるにやわが後に嵩高き過去デンと控へる

錦織のサーブの写真の表情の険しさが良し 眼光りて


12月
題「煙」

芳香の立ちまどひけむ浦島の玉手箱より出でし煙に

山火事の煙が町を覆ふ朝換気扇より臭ひ入り来る






Gusts 21

“Where the gravity works”
Einstein said, “even the light
doesn’t go straight”
No wonder people bend themselves
under the political pressure


On the flight back
to my homeland, Canada
I close my eyes
already dreaming of the next visit
to my nativeland, Japan



My dear old forgetful Keiko,
I am your cousin
・・・・ and not your mother
but if you feel better that way
Yes, I will be your Mom just for now



Gusts 22


when I was young
the NEXT TIME was
always there
waiting for my
next challenge


Red Globe
the big grapes
are so called
…I put one Globe
into my mouth now


Obviously...
the toddler Addi often starts
his sentence
as if he were making
a serious statement





東京歌会

ねんねこにみどりご負ひて温かりき母となりたる初めての冬


明治神宮  
次々と霧の底より湧いて来る対向車線のヘッドライトが

新婚の夫の買ひ来し中華鍋五十年経てまだ活躍す





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